シュヴァルツヴァント山脈は、“黒の壁”の異名を持つブランブルグの西方に在る大山脈です。
ラルージュ王国とオロス公国を南北に隔ててる大きな存在であり、北には豊潤な水源を、南には湿気を吹き飛ばす風を齎し、この地方の南北の気候を分断する壁として聳えたっています。
シュヴァルツヴァント山脈は、幾つもの火山が連なった火山帯です。その火山の多くは現在は休火山となっていますが、過去に大噴火を起こした痕跡は数多く発見され、幾つかの歴史書にもそれらの噴火について述べられています。
これらの火山噴火は、ブランブルグの巨大多層遺跡が土砂に埋まった原因とも推測されています。
山の多くは黒い溶岩の岩山が多く、これが“黒の壁”の由来にもなっています。
また、休火山帯となってから長い年月が経ち、現在では山の北側は緑に覆われ、野生の獣や野鳥の姿も多く見られます。
人が住むには険しい山地の数々は、狂暴な動植物も多数生息し、力のない者が迂闊に足を踏み入れれば彼らの餌食にされてしまいます。
一方で、山脈の南側は魔物の数こそ少ないものの、切り立った断崖絶壁が多く、浸食されずに残った山地と岩々の間を山頂より吹き降ろす風が狂乱の風となって吹き荒れています。
山脈の南側は断崖登山の苦労だけでなく、吹き荒れる風に立ち向かう勇気も必要とされるでしょう。
この山に挑んだ冒険者たちで、二度と戻ってこなかった者たちは少なくありません。
参照:“鳥獣の谷”ヴァハナ渓谷
シュヴァルトヴァント山脈に東部にはドユの立坑と呼ばれる坑道があります。
魔動機文明時代の金鉱で、大破局で打ち捨てられた場所で、複数の立坑がまばらに存在しています。
掘り出した金が多量に放置されていると言われますが、確認されたことはありません。
そして、閉山したわけではないため、鉱床は十分な量が残っていると推測されています。
そのため、ドユの立坑を取り戻そうとする動きもありますが、現在は蛮族が出没する地域であり、また、坑道内にも蛮族が棲息し、近づくのも危険な場所であり夢物語に終わっています。
しかし、腕に覚えのある冒険者が少ないながらも金鉱を持ち帰った事例もあり、一攫千金を夢見て立坑に挑む冒険者は少なくありません。
立坑の深さは入り口で数百mにも及びます。当時の昇降機は既に故障しており、この立坑に挑む者は安全に昇り降りする手段を保つ必要があります。
そして、無事に地下へ降りられたとしてもそこから周囲に伸びる坑道は、300年余以上放置されたものであり高い崩落の危険と魔物との遭遇は覚悟しなければなりません。
砂漠の東、シュヴァルトヴァント山脈南部に存在する峠です。
片側は断崖絶壁になっており、下は深い渓谷となっています。
大破局時代、シュヴァルトヴァント山脈南部に暮らす山間の人々は蛮族に追い立てられ、最後にはこの峠で左右を挟まれ逃げ場を失いました。
そして、最期は蛮族たちに崖へと突き落とされて、多くの人々が命を失った場所です。
この渓谷に吹く風は、人々が悲しむ泣き声のようにも聞こえ、また、不意に吹き荒れる強風によって崖下へと飛ばされることもあるようです。
“雨の森”レーゲンヴァルトは、シュヴァルトヴァント山脈北部に広がる森林地帯であり樹海です。
この森は、山脈から流れ来る何本もの川と湧き水、そして、膨大な年間降雨量による豊かな水を蓄えた場所です。
その豊富な水に育まれ、この地の樹木は他に類を見ないほど密生する特徴があります。
三日に一度は雨と言われるほど雨がよく降り、旧文明時代より雨の森とよばれます。
その原因は、北部より南部へと流れる雨雲と寒気を山々が堰き止めており、それらが雨となって降り注ぐことに依ります。
雨量が多いため、大小の湖や湿地、沼、名も無い川も多くみられます。
森の木々の多くは四季に合わせ姿を変える広葉樹ですが、山脈に近付くほど針葉樹の割合が多くなります。
旧文明時代には、エルフ達による華やかな王国が築かれていたと言われるこの森は、大破局以降は奥に行くほど蛮族が跳梁跋扈する森と化していました。
食料となる動植物、それに水の豊富なこの森は、野性的な生活を営む者たちの棲家に向いており、多数の蛮族が縄張り争いをしながらも、総数をじわじわと増やしていったのです。
水源が多い場所ではリザードマン種が蔓延り、他はボルグやゴブリンなどの多種な妖魔が存在していました。
しかし、近年は、この地の大多数の妖魔たちを支配していたゴブリンロードが討伐され、多数の蛮族が縄張り争いを繰り返す血で血を洗う場所となっています。
それによって生じた死霊たちも溢れかえっており、一時期は“妖魔郷”とまで呼ばれていた地は妖魔とその死霊が跋扈する“妖霊郷”に姿を変えています。
旧文明のエルフ族の遺跡はノスフェラトゥが支配しているとされ、エルフの末裔たちが血の奴隷として扱われると噂されますが、それを確かめることは困難を極めます。
自然の恵み豊かな森のため、オロス国はこの森を征服しようと幾度も派兵していますが、その度に慣れない森林の中で蛮族軍に翻弄され撤退しています。
また、この森には世界樹“アイヴィスウィーデン”があると古い文献に載っています。
しかし、よく晴れた日にシュヴァルトヴァント山脈の峰から、この森を一望しても世界樹のような大木の姿は見えないため、昔に滅んだか、文献が誤っているとするのが現在主流の学説です。
参照:“妖魔郷”エヴルー
旧時代に雨の森にあったエルフの街をヴォデナと呼びました。かつては“翠流の都”と呼ばれ、厳かな建築と水と緑豊かな自然が混ざり合う神秘的な街だったと伝えられます。
大破局の際、この都は蛮族の軍勢に飲み込まれ、美しかった街並みは暴力に飲み込まれました。
それによって妖魔が蔓延る蛮族の街となるはずだったこの街ですが、今は妖魔の姿はなく、ノスフェラトゥが支配する静寂だけがあります。
この街の近くにはヴォデナの滝とそれによって作られる泉があり、そこは今もなお美しさを保っているとされます。
水面が鏡のように鮮明に周囲の風景を写す不思議な湖です。
その反射によって、水上からは水の中の様子が全く見えず、探索が困難な湖となっています。
また、ある種の金属を多く含んだ水のようでそれが毒素となり、素潜りは著しく命を削るります。
この湖の水面は何処か別の世界と繋がっていると云われることもあるようですが、人々が生んだ妄想とされています。
レーゲンヴァルトには、“玉虫苔の里”と呼ばれる場所があります。
その地には数百種に及ぶ苔が生息し、様々な色合いを持っています。
その多様な種類の苔はそのまま多様な薬となり、難病や珍しい病を克服するために必要な材料となっています。
また、千変の色で変化する景色は非常に美しく、訪れた者の心を奪います。
しかし、苔の中にはある種の毒素を発生させるものもあり、人族のみならず蛮族にとっても油断出来ない場所になっています。
シュヴァルツヴァント山脈の南側は乾燥地帯であり、ザントメーアと呼ばれる砂漠が広がっています。
大陸の北部から来る雨雲はほとんど山脈の南には流れず、山脈の山々より吹き降ろす烈風が僅かな湿気すら吹き散らします。
通常の砂漠と同じく、昼間は暑く夜は寒い場所であり、また砂嵐など吹き荒れる熱砂によって植物や動物にとっては非情に厳しい環境となっています。
日々、風に嬲られる砂は、自然と波打つ海面の様な文様を描き、その様相から“砂の海”とも呼ばれます。
この砂漠にはほとんど人族は住んでおらず、砂漠や荒野を好むバジリスク族やアンドロスコーピオン族、地下に営巣するフォルミカ族などの蛮族の姿が見られます。
また、己を厳しい状況に置こうとするトロール族もおり、ザントメーア砂漠は多くの部分が蛮族の領域となっています。
近年、砂漠が広がっており、ラルージュ国は国土の砂漠化に頭を悩ませています。
メルーサはザントメーア砂漠の最西端にある街で、ブランブルグとラルージュ王国を結ぶ鉄道のポイントザントメーア駅から半日ほどの距離にあります。
ザントメーア砂漠に存在する数少ない人族の街であり、オアシスにくっつくように家々が立ち並びます。
今では砂漠の民が暮らしていますが、最初はザントメーアにある付近の遺跡探索のために少しずつ集まった人々が発端です。
街は高さ4m程度の壁に囲まれ西と南に門があり、物見櫓などを備え、防備はそれなりのものを要しています。
主な施設は中央広場、ハルーラ神殿、隊商居留地、そしてマギテックギルドの支部があります。
近年、街が大きくなった影響を受け、砂漠の蛮族との衝突が絶えないようです。
ザントメーア砂漠にある魔法文明時代の遺跡です。
メレディスという名の魔法王が力を誇示するために作った巨大な祭壇を中心とした街だったと記録されています。
当時の街のほとんどは既に砂に埋もれており、今では祭壇の上部が地上に残る廃墟となっています。
力を誇示するために祭壇は広く高いものであったとされ、内部には幾つもの部屋があると言われています。
周辺には時折、砂が陥没した場所が現れ、そこが祭壇の一部が崩れたために内部に繋がる新たな入り口が現れることがあるようです。
そうして、幾度も探索が行われ、貴重な品が出土した例は多数あります。
内部は魔法の力に満ちており、探索にはかなりの技量を要し、メレディスの遺体や祭壇の中心部に行く道は未だ見つかっていないようです。
ザントメーア砂漠の中央付近に存在する、巨大な円形の流砂の群れです。
大小様々な流砂が存在しますが、大きな流砂の直径は数百mにも及び、不意に足を踏み入れた者を捉え、乾燥した砂漠の中で立ち往生することになります。
これらの流砂はそうして多くの生き物を飢えと乾きで殺し、干からびた皮と骨を飲み込んできました。
一度、流砂に捉まると抜け出すことは容易ではなく、もがけばもがく程沈み込んで行くことになり、助かる者はほとんどいません。
また、この地にはアントライオン、即ちアリジゴクたちが多数生息し、乾きで死ぬ前に彼らの餌になることもあります。
これらの流砂は数多の生き物を飲み込んできたとも云われていて、地中には多くの死霊が蠢いているとも考えられています。
過去には、数kmにも達した流砂も確認されていて、畏怖の対象となっています。
多島海とは、ブランブルグの東の海にある大小様々な島の密集する海を指します。
そこは岩礁地帯であり、岩礁よって海流も複雑なため、喫水の深い船や大型船で侵入すれば間違いなく座礁すると言われる操船の難しい地域となります。
岩礁を隠れ家とする魚介類が沢山おり漁場として根強い人気がありますが、この海域には水棲の魔物や蛮族の出没も多く、海流と合わせて命がけの漁場となっています。
この地の魔物で数が多いのはギルマンやサハギンなどの蛮族であり、マーマンやシーサーペントの姿も見受けられます。
しかし、この地で一番力を持っているのはスキュラ族であり、スキュラは数が少ないながらも多数の死霊を操って勢力圏を作っています。
また水棲の魔物や蛮族とは別に交易船を狙う海賊も出没します。
彼らは波に削られた複雑な地形の島々を根城としており、神出鬼没として恐れられています。
この地域は人族、蛮族問わず、日々、多くの血が流れ、死体が流されていく治安の悪い海域であり、「修羅の海」と呼ばれています。
そのような状況とは裏腹に、朝日に照らされる島と海の織り成す情景は非常に美しく、その光景に魅せられ、この海域の安全を心から願う人も多いようです。
島々の中には旧文明の遺跡や海賊の隠れ家などが幾つもあり、なによりも北領奪還戦争の最大の障害地であり、かつての英雄が蛮族の王を打ち倒した地であり、また、その蛮族の王が残した財宝が眠る場所ともされ、冒険者にとっても魅力的な場所です。
多島海には小さな島がひしめき合う地域があり、その狭い海峡と月の満ち欠けによって凄まじい速度の潮流が生まれます。
その潮流により時折、巨大な渦潮が発生し、白い潮がトグロのように見えるそれを“大蛇の渦潮”と呼び、恐れられています。
その巨大な渦潮に巻き込まれると水棲生物とて一溜まりもなく、なすがままに渦潮に飲み込まれるほどです。
この渦潮を制覇した者は、自ら大渦を生み出すほどの術を身につけるとされますが、ただの御伽話であり、渦潮の力強さを表現するために謳われたものです。
栄光の川グローリアが流れ込む下流地域には広い湿原が広がっています。
ラルージュ国やブランブルグでで流通している地図上では海として描かれる部分ですが、オロス国の地図ではそこは広大な湿原として描かれています。
グローリア川が流れ込む湿地帯にはマングローブの樹木などがまばらに生え、海に近づくにつれて干潟となります。
南側にはラグーンもあり、東西南北にかけて環境の変化が著しい湿地帯です。この湿地帯は南は蛮族の領域であり、北は死霊が蔓延る地となっています。
この地域の蛮族の主勢力はタンノズであり、次いでサハギンやギルマン、リザードマンなどの種族が生息しています。
オロス国では、「栄光の川は滅びの海に続く」という言葉が残っており、いわゆる栄枯盛衰を示した諺とされています。
この言葉はあたかもブランブルグを揶揄するものとして、しばしば誤解を生んでいますが、この付近の実態を古くから認識しており、知見がある者は諺ではなく過去の人達が残してきた警告だと知っています。
そして、歴史的にも北領奪還戦争の際にオロス国が多くの痛手でを負った場所です。
参照:“泥濘の園”ポアプクゥム
黄金の街道の南に広がる開拓地の更に南にある森です。
ラルージュ王国のラヴィス伯爵の領地にある広いだけの森であり、森林資源程度の価値しかなく、ラヴィス家は軍閥の家系でもあるため、積極的な利用が行われていません。
しかし、森の奥には人の手が入っておらず、奥深い中心部には原生林が多く存在しており、学術的価値が高い場所となっています。
植物だけでなく、他の地域では既に絶滅した動物も見られるということで、生物学者や植物学者が興味を持っています。
森への立ち入りは緩やかに取り締まっている程度であり、積極的に森に入ろうとするならば容易く足を踏み入れることが出来ますが、元々、立ち入りの許可も出やすく不法に足を踏み入れる者はほとんどいません。
ラヴィス伯爵は北領奪還戦争の英雄の1人の血縁です。本人は多忙なため人前に姿を現すことはほとんどなく、ラヴィス家の使用人が物事の応対に能っています。
黄金の街道が通る開拓地の西に草木が生えぬ荒野があり、そこはホズプレエ村跡と呼ばれます。
数年前に大規模な魔域が発生し、魔界の植物が繁殖した〈蒼薔薇事件〉と名付けられた現象の爪痕が深く残る場所であり、“蒼薔薇の爪痕”と呼ぶ者もいます。
魔の植物に冒されたこの地域の動植物は、根も残らぬほどに事件の終焉と共にすべて焼き尽くされました。
その犠牲者の中にはその地に暮らしてた人々もいたと記録されています。
焼き尽くされた後に残されたのは薔薇の腐臭を漂わせる腐敗した土壌であり、植物を植えても瞬く間に枯れてしまうほどの毒素を含んでいます。
その毒素は周囲の田畑に広がり、その付近一帯を人が住めない土地にしてしまいました。
この地域からは死霊とも魔神とも分からぬ魔物が生まれることがあるようです。